リフォーム需要の創出と既存住宅活性化を実現する 平成23年3月10日 公式提案

住宅は耐久消費財か?

日本ではこれまで住宅を15年程度で減価償却する耐久消費財としてスクラップ&ビルドを繰り返してきた。その結果、日本では金をかけても何も残らず、毎年20兆円ずつ価値が失われている。日本は世界一の省エネ国だが、こと住宅資産では世界最大の資源浪費国である。日本以外の国では全て資本財扱いである。欧米流に「富の上に富を創る」という基本に戻って、住宅を社会資産として捉える事が必要になってきたように感じる。(リチャード・クー氏[1]
その観点からすれば、住宅の質の向上を図り、適切な維持管理と適正な既存住宅の流通市場を整備し、住宅の長寿命化を図る政府の施策方向は正しい。省エネ化も含め大賛成だ。近時は既存住宅の流通が、新築住宅と匹敵する市場規模になっているとの報告[2]もある。
 
【住宅政策は自由放任主義でいいか?】
住生活の質向上を促す施策は、政府が最優先に取り組まねばならぬ重要政策で、市場の成り行きに委ねる自由放任主義であってはならない。ホームレスなどの住宅窮乏者の増加は、社会の安定に大きな脅威を与えかねないからである。最低限の居住空間は、憲法に定められた基本的人権であり、その意味で住宅政策は福祉政策でもあることを掲げる必要がある。(早川和男氏[3]
住宅政策には、災害に対する耐力強化策を含まねばならない。阪神淡路大震災を例にするまでもなく、大規模な震災や風水害は人々の生活だけでなく、一国の経済社会をも破壊してしまう威力をもつ。国土と国富の保全面でも、耐震化や災害に強い住宅は重要である。
 
【住宅は最大の内需型産業のポテンシャル】
住宅建築は新築であれ改修であれ、基本的に地場産業で多くの雇用を創出する内需型産業である。産業政策としての住宅政策は、同時に最も効率の高い雇用対策に直接結び付く。しかも住宅はデフレギャップを解消するための需要では、規模の面で最大のポテンシャルを持つ。
「国民の生活が第一」のスローガンにあるように、モノの消費ではなく、生活の質そのものを考える風潮が芽生えてきた。ようやく日本も「住まい」を真剣に考える成熟社会になりつつあるのは嬉しい。
 
【緩やかな介入主義の住宅政策】
ならば、これをどうやって実現するか? 少子高齢化し産業の空洞化が始まった日本の現代社会では投入できる財源には限度がある。より少ない財政支出で、より大きな効果を生まねばならない。強制は依存と責任転嫁を誘発する傾向にある。かといって、市場原理主義や放任は結果としてより政府の社会的支出をより大きくする。受益者負担と多様な選択肢の提供が欠かせない。(「緩やかな介入主義」齋藤誠[4]
 
兵庫県下の播磨地域で地場の工務店、ビルダー、リフォーム店などを対象に住宅設備と建材の卸販売や住宅瑕疵保険の取次業務、住宅エコポイントの受付窓口など中小建築業者向けのビジネスサポートを業とする傍ら、日々の現場で心に映りゆくことのよもやまをそこはかとなく書き綴ってみた。
 
拙筆が、新しい日本に相応しい住生活の質的向上や地場産業の振興と雇用の拡大、社会の安定と国富の保全にいくばくかでも貢献できれば本望である。
 

平成23年3月1日 

今村産業株式会社
代表取締役 今村純一


[1]「日本経済を襲う二つの波 サブプライム危機とグローバリゼーションの行方」(2008年)
[2] 社団法人 不動産流通経営協会 会報 No.107 平成23年1月号
[3]「早川式「居住学」の方法 五〇年の思索と実践」(2009年)
[4]「日本経済新聞 経済教室 マンションの耐震性向上へ」2011-2-11 
teigen PDF:【提言】住宅リフォーム需要の創出と既存住宅流通活性化に関する一考察

はじめに

【本提案の目的】
 本提案の目的とするところは、住宅の「リフォーム需要の創出」である。リフォーム需要には、住みかえを伴うものとそうでないものに分かれる。前者は、家主の変わる持家と家主の変わらない賃貸住宅に分けて考える必要がある。後者の場合は、ハードとしての住宅そのものの質の向上が中心で、一言で「リフォーム」と称するが、その中身は千差万別で障子やクロスの張替などの簡易な工事から、水廻りの住宅設備の更新、更には躯体の耐震補強や外装・屋根の張替などの部位改修から、全面改修まで多岐にわたり、一言で「リフォーム」といっても具体的な工事の内容によっては、需要の創出対策が異なるので注意を要する。
 
住宅リフォームの需要創出を住まい人の視点で見ると、住みかえ支援であり住まいの質向上である。
 
本提案では、現制度や現状がリフォーム需要創出の目的に貢献しているか、どうすれば需要の創出に効果があるかの点に論点をフォーカスする。
 
論じる分野は多岐にわたるが、1.建築基準法などの法規制 2.需要創造促進制度(公的支援と民間活力の融合)の充実 3.住宅建築事業者の活性化支援対策 の3つのテーマに分けてみた。 

1.建築基準法などの法規制

「建基法が成長を阻む」[1]との指摘もあるが、こと住宅リフォームの需要のなかでも増築に関する限りは、平成21年9月告示の「既存不適格建築物の増築に関する基準の緩和について」によって、実用的なレベルにまでかなり改善されている。それは指定確認検査機関でも確認することができた。但し、課題は残る。
 
一番大きな課題は、現場で施工する建築工事業者がそのことを知らないこと。つまり、制度の啓発不足。平成17年の告示566号「既存遡及の緩和」で実質増築が出来なくなった上、その直後に追い打ちをかけるように耐震偽装事件[2]が露見し、更に建築確認・検査の厳格化された。官製住宅不況と揶揄されたが、これに懲りて現場では諦めムードが先行しているので、ほとんどが専門家への相談すらされずに、空き家のまま長期間放置され傷んでしまうか、新築するために取壊しされている。もったいない話だ。躯体構造のしっかりとした石場建ての伝統工法による古民家や農家の再生・再利用がされれば、社会富の蓄積にもなり、地場の大工や職人の雇用と伝統技術と街並みの保存にもつながる。現行の法規や基準のままでは、躯体が頑丈で保存価値のある民家(特に昭和20年以前の建物)でも、その多くがゆくゆくは取壊さざるを得ない運命にあるのは忍びない。
 
そのためにするべきことは、先ず、増築規制に関しては
 
              (1) 建築事業者と国民の双方に対する緩和制度の徹底した啓発 が最重要。
 
次に、構造のしっかりした頑丈な造りの民家等の保存に関しては、
 
              (2) 上部構造評点の最低限の低減等「耐震基準適合証明書」の発行基準の緩和
              (3) 伝統工法の認知とダンパーなどによる耐震力補強技術の開発による一体増築の実現
              (4) 省エネ基準を見直し「木製建具+内障子」等の工夫を認める条件を設ける
 
などが必要。
 
現在建築基準法の見直しと建築基本法の制定が検討されているが、社寺仏閣などの文化財だけでなく、躯体のしっかりとした一般民家の保全が実現できるような改正をすることが社会・経済的にも有効である。現行の建築基準法のように「最低基準」を決めるのではなく、【緩やかな介入】で複数の選択肢の内から「標準」を示唆する法体系にシフトする「松竹梅」方式が有効と感じる。

[1]「日経アーキテクチャー」 2010-12-27 No.942
[2]「平成17年11月」の耐震偽装問題(いわゆる「姉歯事件」)  

2.需要創造促進制度の充実

 需要創造型の支援制度では、公的支援と民間活力の融合が鍵になる。
 
住宅の改修を促す国の補助事業には、現在「ストック活用型住宅セーフティネット整備推進事業」「既存住宅流通活性化等事業」「太陽光発電や省エネ型給湯器などのエコ設備補助金」「住宅エコポイント」などがある。その他にも、省エネやバリアフリーリフォームを促進する優遇税制やフラット35などの政策金融がある。だが、民間活力との有機的な融合や協働が不十分に思える。補助事業が多岐に及び、輻輳しているため全体像が分かりにくい。
 
平成21年10月から始まった瑕疵担保制度と、それを支える現場検査や取次窓口体制は貴重な存在に育ってきた。住宅エコポイントの運営も受付窓口となっている保険取次店の存在が大きい。今後の住宅行政における「緩やかな介入政策」でこれらの民間活力が大いに生かせる。
 
どう具体的に活かすか? 
 
A.利子補填による無利子長期ローン
 
老朽化した賃貸住宅の建替又は大規模改修で、建物の所有者(建築主)に対する無利子(又は超低金利)の長期ローンの供与、つまり政府による利子補填を提案する。居住水準の向上を図ることができると共に、建築需要の創出と消費による資産の世代間移転を促進できる。医療・介護付き高齢者専用住宅の建設も対象になりうる。荒唐無稽な提案に聞こえるかもしれないが、米国のグリーンニューディール並みの需要創出による景気回復をめざすならば、このくらいではまだまだ物足りない。富裕層優遇の批判には、毅然とした信念と態度で「住宅困窮者対策では、先ずは住宅福祉の実現のため民力を活かした住まいの提供が有効」と応えて欲しい。
 
三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏が提唱する自立国債[1]の発行も国策として魅力がある。国の借金が増えるが、民間セクターによる社債で資金調達するなど、通常の国債とは異なる手法を専門家の皆様方から提案してくださることを期待する。
 
B.リフォームローンの充実と担保評価と優遇税制
 
日本の住宅の担保価値は、築後15年ほどでゼロになる。昭和20年以降は、産業資本の蓄積が優先されたがゆえに、住宅は耐久消費財化したからである。住宅の担保価値を上げることが、社会資産としての住宅の価値を支え、街並みや地域コミュニティの再生を促す。
 
検証を要するが、フラット35のメニューに優遇金利のリフォームローンを加えるだけで、かなりの需要を喚起できるのではなかろうか。建物検査の制度を充実させ、「耐震基準適合証明書」が発行された住宅にはそれ相当の担保価値を認めることが必要だ。
 
既存住宅の改修は全面改修でも新築とは違って、増築を伴わなければ固定資産税等の税金が増えないため所有者の税金面でのメリットは大きい。新築住宅の優遇税制よりも既存住宅改修の税制面でのインセンティブがより強ければリフォーム需要を喚起する結果になる。リフォームに関する優遇税制の適用拡大を提案する。
 
現行の制度では、既存住宅に火災保険を付保する場合、保険価額に限度があるため、リフォームローンの担保が不足してローンが組めない。新築住宅で住宅ローンを組むと強制的に火災保険に加入するが、担保価値の減価により担保不足となるためか、生命保険にまで担保(質権)設定する。住宅の取得も命がけということか? 世界標準からすると異常な商慣習である。
 
特に、住みかえ支援に特化したローンの商品開発が必要。金融・保険・税制の専門家による分野横断的な検討を期待したい。
 
C.建物検査体制の充実
 
住宅の価値を検証するには「建物検査」が欠かせない。「適合証明書」が発行された住宅だからといっても、必ずしもそれが流通市場で額面の価値を認められるとは限らない。しかも、立地条件にも大きく影響される。しかし、建物の価値が確認されていない住宅は、流通市場で正当に価値評価されはしない。いわば、建物検査は、既存住宅流通の必要条件にすぎないが必須事項である。
 
「ホームインスペクター制度」の導入が検討されているが、民間の指定確認検査機関の制度的な活用と瑕疵保険と一体になった運営を実現することが望ましい。そのためには、検査項目や手法、料金のある程度の標準化は欠かせない。建物の性能を評価する簡易ツールの開発も必要である。検査結果が担保価値の向上に結び付く仕組みが大切。「既存住宅性能評価書」には、新築の「確認済証」と同様の効果を付与することが望ましい。
 
D.既存住宅の「現状有姿」取引や「両手取引」の公正化
 
既存住宅の売買では、「現状有姿」取引が一般的であるが、その正確な意味内容といえば曖昧模糊としている。元々の意味は、契約後引渡までに目的物の状況に変動があっても、売主は引渡時の状態で引き渡せば事足りる、ということだったようだ。ところが、巷での解釈は、物件に契約時には分からなかった傷(瑕疵)があっても、売主は責任を負わないので、原状回復義務も負わないし、損害賠償も受け付けない、もちろん修復もしないといった瑕疵担保責任の免除を意味するものと理解されている場合が多いようだ。
 
隠れた傷、つまり瑕疵のリスクがあるから売り手も買い手も疑心暗鬼で既存住宅の取引が胡散臭い公正さに欠けるものになってしまう。入居後のトラブルも多いと聞く。「建物検査」や「耐震基準適合証明書」の発行で売主の瑕疵責任を軽減することが、個人間売買の仲介ではなく、買主にとって安心感のある不動産事業者との取引を促す結果になり、既存住宅の流通活性化に結びつく。不動産売買取引における所謂「両手取引」の禁止[2]が取沙汰されているが、不動産業者にしてみれば、自らの才覚で売主と買主を探してきたら両方から手数料が欲しいと思うのはごく自然。手数料収入を生業にするものとしたら、取引をぶち壊ししかねない不都合はできれば隠しておきたいもの。「建物検査」や「証明書」「性能評価書」等の発行で制度的に瑕疵責任の軽減を図ることのほうが、取引の透明性と公正性を増してモラルハザードを抑えるので、結果的に既存住宅の流通を活発化させる効果をもつ。
 
リフォームや既存住宅の売買を対象とした瑕疵保険メニューも充実してきているので、これからなすべきことは建物検査の普及と一層の啓発である。普及のためのインセンティブは、検査費用の一部を賄う補助金も即効性もあり有効だが、より効果的なのは販売の対象となる物件の「見える化」で、より「早く」かつ「高く」売れることである。やはりここでも啓発が大切である。事業者だけでなく、並行して市民一般に対するあらゆるレベルでの政府公報が必要だ。


[1] 小宮山宏氏(三菱総合研究所理事長)が提唱する日本版グリーンニューディール政策。投資の回収が可能な太陽光発電や省エネ設備の導入を国が行って、住宅に無償(利用料を徴収しない)で取付し、売電による収益で国債の償還をはかり、償還完了時には住宅所有者に払い下げるもの。
[2]民主党政策集INDEX2009 2009-7-23 

3.住宅建築事業者の活性化支援対策

 住宅投資は内需の柱であり、地域の経済や雇用に大きな波及効果があるが、「失われた20年間」のかくも長き不況と資産デフレで、住宅事業者は、技術の継承もままならず地域において多くがその事業を継続できるかどうかの瀬戸際にあるといっても過言ではない。たとえ事業継続はできてはいても、長引く住宅不況で体力の消耗は著しく、その多くは財務内容を毀損し、将来の展望は厳しい。これでは多様なニーズやウオンツをもつ現代の消費者の期待に応えることはできない。省エネや長寿命化で住宅そのものがますます取扱の難しいものになってきている。
 
快適で質が高く環境への負荷の少ない良質な住宅の建築や既存住宅の質の向上には、その担い手となる中小工務店など地元の建築事業者の育成が欠かせない。特に、既存住宅の性能向上改修では現場経験が豊富で、地域の風習や伝統文化に関する造詣をもつ熟練技術者の存在は必須である。
 
そのためには、地域における住宅事業者が元気になることが欠かせない。どうすれば元気になるか?
最右翼は受注増による仕事量の確保である。それは「需要の創出」=「景気対策」である。ここでは、事業者の活性化支援による需要の創出をはかる施策を提案する。
 
それは、(1) 住宅建築コーディネーター制度の導入と普及 (2)「住まい情報館」の実験的運用 (3) 住宅設備の長期保証サービスの普及促進 の3点である。
 
E.住宅建築コーディネーター制度の導入
 
一言でいうと住宅は「ややこしい」。リフォーム工事は新築よりもっと難しい。トラブルも多い。なぜか?それは、関係する分野があまりに多いからである。建築、土木、設計、構造、設備、意匠、エネルギー、環境、土地、税制、金融、法律、歴史・文化・伝統、健康、介護医療、保険などあらゆる分野にまたがる広汎な知識を要求される。かといって、全ての分野のエキスパートであることを求めるのは現実的でない。現実と期待のギャップが生まれる。これらを有機的に取り纏めるには、ネットワーク型の組織に頼るしかない。
 
それぞれの分野の専門家と有機的に連携できる立場にある人が中心になって、個々の案件をプロジェクトチーム的な運用で賄えるような民間の組織である。法人格の有無や組織の形態は問わない。これを仮に「住宅建築コーディネーター」と名付ける。リフォーム需要の創出には「住宅建築コーディネーター」の機能を果たす人の存在が不可欠である。しかも、全国の津々浦々で多数が必要だ。
 
「住宅建築コーディネーター」は所属する組織(団体・会社)の支援を得て、後述の「住まい情報館」で住まいに関するあらゆる相談の受付と調整の窓口になって、ワンストップサービスを提供する。リフォーム工事内容や材料のアドバイスだけでなく、省エネと環境負荷、長寿命化の手法、耐震力。更に、土地探し、住みかえ支援、建物検査、住宅ローンの取次、建築士や工事業者の紹介、瑕疵保険、住宅エコポイントなど住宅建築と改修工事に関するあらゆる分野の総合相談窓口となって、個別分野のエキスパートと連携しながらプロジェクト進行する役割をもつ。住宅建築とリフォーム工事にまつわるトラブルや紛争処理の取次も、事業者と消費者の双方からニーズがあるだろう。住宅関連の補助事業全般に亘る総合的な理解も不可欠である。インフィルだけでなく、エクステリアと植栽に関する知識も必要だ。
 
関係する分野が不定型に広く、さりとて専門家ではなく、利害相反関係にある業種(例えば住宅検査と建築工事、設計監理と施工)にまたがる内容を含むので、公正性と第三者性の担保に難ありで、公的な資格制度にはなじまないかもしれない。民の知恵の発揮のしどころだが、臓器の移植コーディネーターやFP(ファイナンシャル・プランナー)のようなものをイメージすればいいと思う。運営面では、個別分野の専門取引とコーディネーション(調整)業務を切り離すプロジェクトマネジメント方式が現実的である。「住宅建築コーディネーター」の普及には、どんな形での国の支援と民間活力の融合が相応しいのか、専門家の叡智による積極的な論議を期待したい。
 
F.消費者向け相談窓口「住まい情報館」の実験的運用
 
住宅は完成した商品を見ることができない。ハウスメーカーなどの大企業であれば、高額なモデルハウスを建築してその運営にあたることもできよう。豪華なパンフレットも揃えることができる。だが、地方にいる普通の中小零細工務店でこれをすると、資金繰りを圧迫するので、リフォームを請負う大多数の中小零細業者は、モデルハウスはつくらない。運用も難しい。
 
キッチンやバスなどの住宅設備だったら、見せることが受注への最短距離なので、展示会などのイベントで集客する。ところが、材料や素材だけみても住宅の耐震性能、断熱性や耐久性・省エネ性は見えないし、感じることもない。だからイメージができず、予算的な制約の中で見える物の優先度が高まり、見えない部分がおろそかになる。その結果、住まいの性能面で必ずしもトータルバランスのよいリフォームができるとは限らなくなってしまう。これは新築・リフォームに共通で、残念な現実だ。住まい手だけでなくリフォーム業者や工務店も含め誰でも気軽にかつ安心して利用、相談に乗ってもらえる地元の情報施設が必要となる。
 
「住まい情報館」では目に見えない住宅の断熱性能や耐震力を「見える化」するため、実物大の模型や展示用サンプル、施工例、工法、自然エネルギーを利用したパッシブなデザイン手法など既存の展示場やショールームでは見ることのできないものを見せて、住宅所有者に具体的なイメージを楽しく促すしくみをつくる。更にガスや電力等のエネルギー供給者との連携により、省エネ住宅の普及促進によるCO2排出削減の啓発も実現可能である。節水も重要な要素である。
 
ただ、リフォームのニーズを顕在化して需要創造するには、ハードウエアだけの「住まい情報館」ではただの箱で役に立たない。運営する組織と人が必要だ。しつこい営業や追客をされない安心と信頼も大切だ。
 
組織には、地域内での複数の建築業者、不動産業者、建築家、住宅設備・建材メーカーや流通業者とのコミュニケーション力があることが必須である。更に、銀行・信金・ノンバンクなどの金融機関と住宅瑕疵保険との連携や住宅行政に関する深い造詣もあれば心強い。いわば、「地元力」と「情報発信力」だ。
 
人の面では、「住宅建築コーディネーター」の存在が必須である。前述の「住宅建築コーディネーター」がそれぞれの分野の専門家と連携の上、プロジェクトマネジメントして初めて需要創造が可能となる。完璧な資質を有する人材を求めるとないものねだりになってしまうので、ある程度以上の能力の人材を抜擢して、時間をかけて育てるしかない。工務店や住宅会社などで住宅営業の経験を重ねた建築士等であれば、あとは本人の意欲と努力次第で相当のレベルにまで育成ができる。足りない素養や能力は、組織が補完すればよい。
 
そこで、実験的に「住まい情報館」を設立し、「住宅建築コーディネーター」として新たなスタッフを雇用・配置の上、運用のノウハウの蓄積をはかる事業を提案する。地元力があって「リフォーム需要の創造」が自社の付加価値に結びつく事業者が運営の主体となり、その付加価値の一部を運営費に充てることのできる者なら業種は問わない。トータルコストも最小で済む。うまくゆく確信ができれば、全国に広域展開することを国が誘導すればよい。運営の条件を満たす会社や団体は、全国レベルでみれば大勢いる。景気低迷と建築不況の昨今であれば、雇用と仕事づくりの対策にもなる。住宅リフォームという最大のポテンシャルをもつ地場産業の育成による波及効果は大きい。
 
G.住宅設備の長期保証サービスの普及促進
 
住宅リフォームを考える時、一番人気があるのは何と言ってもキッチン、浴室、トイレなどの水廻りの設備とその付帯・関連工事だ。しかし、人気があるだけに不安やトラブルが多いのもこの分野だ。不安やトラブルの主たる原因は、高額な請求、杜撰な工事など事業者の体質そのものに起因するものがほとんどだが、アフターやメンテナンス、故障の際の緊急対応などで不安を感じる消費者も多い。
 
住宅設備の場合は家電製品にはない特有の問題がある。第一に、水栓金具、ビルトイン機器などOEM部材が多く、部材品番が特定されないとOEMメーカー名が分からないことが多い。第二に、この業界に特有の現象であるが、多段階の流通チャンネルを経由する取引が多く、工場から出荷された商品の流通経路を把握するのが困難なことだ。そのため既存住宅に設置された設備機器の部材レベルでの明細、つまり履歴がなくアフター面での心配を助長している。更新の履歴もほとんどない。
 
家電の流通業界では長期延長保証サービスが一般的だが、この業界ではほとんど浸透していない。その理由はハイリスクだからではなく、むしろ納品明細の記録=履歴がないことの方が大きい。納入明細の記録、つまり履歴さえあれば、修理の対応は迅速だ。出戻り修理などのロスをなくすことができる。業界全体の生産性・作業効率の向上も期待できる。
 
当社が平成13年に始めた5年無料保証サービス(IGS)[1]では、流通経路が一目瞭然なので杜撰な工事や悪徳商法がはびこる余地はない。地元で評判の悪い業者や素性の怪しい者とは、正直怖くて取引ができない。
 
このサービスの運用では、有償・無償の区分を明確にする必要上、納品した商品の記録保存が欠かせない。当社では自社開発の「あんしん台録」[2]データベースソフトを利用している。これが使い慣れれば、よりレベルの高い「いえかるて」のような本格的な住宅履歴書の整備に容易にステップアップさせてゆくことができる。もちろん、既存住宅の検査や診断、価格査定にも役立つ。「現状有姿」取引で不安を覚えることもない。製品に安全上の問題[3]でリコールが発生した際でも、対象商品を検索して早期発見することができるので、迅速な点検・補修対応が可能となる。更に予防保全的なメンテナンスも手掛けることができるようになる。
 
そこで長期延長保証の普及促進を提案する。必ずしも当社のような無料サービスである必要はない。零細な事業者では運営の負担が大きいので、流通事業者による運営が現実的だ。その結果、消費者にアフタサービス面での安心を与えることができると共に、流通履歴を明らかにすることで悪徳事業者の排除にも有効だ。業界全体の生産性の向上につながり、最終的にリフォーム需要と地域での雇用の創出に結びつく。
 
運営の主体には、流通経路の把握面で地元力のある流通事業者の協力が欠かせない。メーカー団体と流通業者の団体とが協同して旗振り役を務めることが望ましい。全国を網羅する住宅設備メーカーの既存ショールームを活用した広報・啓発活動ができれば効果は大きい。
[1]検索:「5年保証のIGS」姫路の住まいhttp://himeji-sumai.com/page0186.html
[2]検索:「あんしん台録」http://ansin-dairoku.com/index.php
[3]「長期使用製品安全点検制度」による標準使用期間の設定と点検制度(経済産業省管轄) 

4.提案の実現による具体的な効果

A.利子補填による無利子長期ローン
B.リフォームローンの充実と担保評価と優遇税制
C.建物検査体制の充実
D.既存住宅の「現状有姿」取引の公正化
E.住宅建築コーディネーター制度の導入
F.消費者向け相談所「住まい情報館」の実験的運用
G.住宅設備の長期保証サービスの普及促進
 
遠くて長い道のりではあるが、この提案の実現によって生まれる成果には次のようなものが期待できる。(順不同)
 
1.老朽化した賃貸住宅の建替えや高齢者専用住宅の建築を促進する(無利子ローン)
2.保存価値のある民家が住み継がれることにより、社会資産の滅失を防ぐ(国富の保全)
3.住み替えにより子育て世代の市街部から自然が残る周辺部や郡部への移住が促進できる
4.増築は、3世代同居を促し、家族や地域の絆を回復するきっかけを提供する
5.介護・医療コストの削減につながる(バリアフリー・省エネ改修)
6.改修された民家の相続で、結果的に金融資産の世代間移転が実現し、相続税対策にもなる
7.リフォームローンの充実でマンション等の大規模リフォーム需要の創出と景気刺激効果
8.建物検査と瑕疵担保保険で売主・買主ともに安心して取引ができる。
9.耐震・断熱リフォームなど目に見えない部分の住宅性能強化リフォームの需要を創造する
10.建築士や住宅建築で深い経験・知恵などをもつエキスパートが担う仕事の創出
11.流通経路の把握と工事履歴の把握による悪徳リフォーム事業者の排除
12.地元の零細事業者による雇用の拡大、職人と伝統技術の継承、保全
13.既存住宅の流通増による不動産業界の活性化
14.住みかえの促進による既存住宅の全面改修需要の創造
15.住宅用建材・部品(住宅設備)業界の販売・流通部門での生産性向上
 
荒唐無稽な提案かもしれないが、政策形成の過程での議論の端で「住宅リフォーム需要の創出」と「地元の事業者の活性化」「住宅建築業界の生産性向上」に貢献する一助となれば幸甚に感じる次第である。