地域の「住まい情報館」運営手法とその有用性 平成24年9月25日 公式提案

提言3:地域の「住まい情報館」運営手法とその有用性

副題:地域型住宅ブランド化事業の採択グループによる「住宅ストックの流通促進」と
    地域経済の活性化・雇用促進策

 平成23年3月に「提言 住宅リフォーム需要の創出と既存住宅流通活性化に関する一考察」を提議し、引き続いて同年7月には『「住まい情報館」の運営・実施要領について』を提議した。(以下、「提言1」若しくは「提言2」と称す)
 
 これらの提言が幸いにも多くの関係者の目に触れ、その可能性と有用性を高く評価してくださる有志のご期待に応えるべく、今回、改めて第3段の提言をする次第である。前回の「提言2」が主に「住まい情報館」のハードウエアに関するものであったとすれば、今回の「提言3」は、いわば「ソフトウエア」で、ハードウエアと有機的に融合することで所期の成果をより確実にするものである。
 
 本年8月に採択結果が公表された「地域型住宅ブランド化事業」で採択された地域グループは、新築住宅が対象だが、ここで構築されつつある広範な連携体制は、「住まい情報館」の運営に欠くことのできない要素を併せ持つ格好の存在である。この地域グループの機能を政策的に強化することにより、既存住宅のトータルリフォーム等[1]の分野でも、従来では成しえなかったことができるようになるのではないかと、そのポテンシャルに大きな期待と希望を感じている。
 
 消費税の第一回目の増税(平成26年4月)から先は、住宅業界は超氷河期が最低でも2年半(二回目の増税から1年間)続く。新築住宅の着工は極端に落ち込み、ただでさえ数少ないリフォームの需要に住まい手が割り当てることのできる総予算も縮小している。この間、多くの工務店と関連業者は廃業や転業、もしくは大手メーカーの下請化を余儀なくされよう。その結果、膨大な既存住宅ストックの維持管理が滞り、ますます老朽化して居住空間の劣化で国民の生活を脅かす。
 
 これら最悪の事態を避けるには、消費税ショック対策と合わせ住宅政策を総動員して、激減が必至の新築住宅需要を穴埋めする既存住宅のトータルリフォーム等の需要と流通を喚起せねばならない。
 
 これは「国民の安心で豊かな住生活」を実現する国の住宅政策として喫緊の要事だ。その政策実現の有効な手法である「地域の住まい情報館」構想の具現化に向けて、引き続き関係各位の積極的な討議に本稿をご活用くだされば、筆者として最大の喜びである。

提言3teigen3
 

平成24年9月25日

672-8057 姫路市飾磨区恵美酒414
今村産業株式会社
代表取締役 今村純一


[1] 「トータルリフォーム等」には、住みかえを伴う「一戸まるごとリフォーム」だけでなく、住まいの質の向上を実現する小規模な工事、例えば壁クロスの張り替えや水廻り設備の取替工事なども含む総括的なものを表す。

はじめに

 先ず冒頭に昨年の2つの提言について簡単にレビューをしておく。
 
 提言1では、【住宅は耐久消費材か?】で住宅を社会資産としてとらえ、「富の上に富を創る」ため、適切な維持管理と既存住宅の流通、長寿命化をはかることの有用性を提案した。【住宅政策は自由放任主義でいいか?】では、国土と国富の保全、国民の基本的人権としての最低限の居住空間の確保のためにも、耐震化や災害に強い住宅の重要性を説いた。住宅政策面では、【緩やかな介入主義】で、受益者負担と多様な選択肢を提供し、より少ない財政支出で住宅政策を実施することの重要性を提言した。各論では、住みかえ支援と住まいの質向上の視点から、建築基準法の緩和措置やリフォームローンの充実、検査体制の充実、「現状有姿」取引の適正化等と共に、消費者相談窓口「住まい情報館」の試験的運用を提案した。
 
 この「提言1」は、国交省の政策担当者や関連する懇談会や委員会の参加者等、住宅にかかわる数多くの方々の目に触れることになり、幸いにも暖かい激励の言葉と叱咤も同時に頂戴し、改めて「住まい情報館」の具体的な運営と実施要領についてレポートしたのが「提言2」である。
 
 この「提言2」では、「住まい情報館」のミッションを、「中小事業者への啓発と育成」及び「住まい手に対する正確な情報提供」と位置付け、内需型産業では最大のポテンシャルを持つ「住宅関連産業の活性化」と「地場経済への貢献」をその社会的使命と位置付けた。更に、「住まい情報館」の顧客や成果の確認手法と運営能力、特に地元力と専門分野のエキスパートをパートナーとして迎え入れることの重要性を説いた。「住まい情報館」の仕様と運営に要するコストを提案し、更には高齢化の限界に達している建築工事従事者の危機的な状況もレポートし、需要創造促進制度と住宅建築事業者の活性化支援を政策として充実することを訴えたものである。

「地域型住宅ブランド化事業」の画期性と可能性

 今回のブランド化事業は、これまでの個別補助と異なり、地域での優良住宅生産体制に属する工務店が建てた住宅に間接的に補充をする、という形式を採ったため、仕様面での全国共通ルール(長期優良住宅)に加えて、地域毎、グループ毎に独自にユニークな「地域ルール」を構築することができた、という意味で画期的である。
 
 第一に、住まいは地域の気候や風土に合わせてつくることが当然なのに、近年は大手ハウスメーカーの製造する「住宅製品」が闊歩した結果、現実世界では、地域域材や自然にある素材から最低限の道具を使って手でつくる「住まい」が疎んじられてしまった。「誰もが日本文化や職人の技の継承が大事なのは分かっているが、頭で分かっているだけで体では分かっていないので、経済性ばかりに囚われて本物が廃れてゆく。職人受難の時代、左官はいまや絶滅危惧種である」[1]と聞くのはあまりに哀しい。今回のブランド化事業で、住まいづくりの原点に還ることができるチャンスが与えられたのは地域にとってはありがたい話。パッシブなデザイン手法は、地域にある自然素材の利用を促す。
 
 第二に、維持管理を含めた共通ルールに則った運営をするグループの存在=生産体制そのものに付加価値を認めた点である。ルールに必須項目と選択項目を設けて、多彩なサービスを構築するのもいいアイデアだ。
 
 これがブランドの真の姿だが、生産体制をもつグループが国の補助対象になっているということが大きな意味をもつ。構成員との緩やかな連携とチームプレーという、今回のようなやり方でなければ、大手ハウスメーカーとの競争には勝てないだろうと危惧していた矢先だが、もしかすれば、地域力と地域材のトータルパワーで大手ハウスメーカーにも負けない住宅をつくれるかもしれないとほのかな明かりが見える。地域経済への波及効果と雇用確保も大きい。このグループ力を活用しないことは、国家的な損失であると断言しても言い過ぎではない。
 
 共通ルールで定義された仕組みに参加することで、これまでは出来なかったことができるようになり、そこにビジネスチャンスが生じれば、自ずと普及に拍車がかかる。鍵になるのは、ビジネスの正当性とグループの要となる事務局のコーディネート力だ。
[1]  「土壁からみた日本」挾土秀平(はざと・しゅうへい)さんに聞く 平成24年8月25日 日本経済新聞(夕刊)シニア記者がつくるこころのページ、ソリストの思考術 第5巻「挾土秀平の生きる力」(六耀社)より 

住まい情報館の運営主体

 「住まい情報館」の運営では、地域グループが構成員と相互連携したネットワーク型の組織[1]運営をすることが期待されている。
 
 事務局(会社)は、グループの総合調整役であり、事業の進行役を務める[2]モデレーターでもある。事務局は成功の鍵となる重要な要素であるので、その資質にはレベルの高いものが要求される。そこには取り纏め役の「住宅建築コーディネーター」[i]を配することが望ましい。「事業者」と「住まい手」双方の価値を実現するには、地域における地元力や地域密着力が必要不可欠だ。
 
 参考までに「提言2」で掲げた「住まい情報館」の運営主体に必要とされる資格要件を再掲する。
 
(1) 住まい手のリフォームでは、キッチンや風呂、トイレ等水廻りのリフォームが圧倒的な人気であるので、住宅設備や建材に関する幅の広い知識と現場経験が不可欠である。その意味では、複数の住設建材メーカー品を取扱う流通会社(問屋)が有利ではある。
(2) 元請たる事業者(工務店・リフォーム会社)との接点が多数あること。直接の取引関係があれば、その事業者の仕事ぶりや近所での評判、信用度がよくわかるのでなお良い。
(3) 住まい手である最終消費者との接点があることも必要。なかでも、住宅エコポイントの受付窓口業務をした実績のある住宅瑕疵保険の取次店は運営主体として有力な候補である。
(4) 住宅建築に関する制度や規則の他、幅の広い知識と経験、特に施工に関するノウハウと人材を有すること。
(5) 省エネ・エコ住宅の設計に必要とされるエネルギーや熱量、換気・暖冷房、給湯設備、照明に関する豊富な知識と現場経験を有すること
(6) 金融機関や不動産業界、建築確認検査機構、行政との幅広い接点を有すること
(7) 地域の医療機関と介護・福祉サービス業との連携ができること(今回追加)
 
  医療の分野で「プライマリー・ケア」[3]や「地域包括ケアシステム」[4]という考え方があるが、「住まい情報館」においても、総合的な見識と経験をもつコーディネーターが、相談者の広範な不安や疑問に応えることのできるヒアリング力とモデレーターとしての能力が求められる。ただし、この能力は個人に属する能力ではなく、「法人」等の組織体で、かつ資格要件を満足する組織体であることが必要なのは、「提言2」[5]で指摘したとおりである。そうでなければ、継続性と社会的な有用性が確保できない。
[1] 「ネットワーク型組織」の特徴は、構成員一人ひとりが自律性を持ち、かつ組織に自発的にコミットできる風土。多様な個性と能力を持った人々が協働(コラボレート)し合う自律分散(Network/Web)型社会。参加者一人ひとりの主体性や当事者意識を育み、優れた合意形成や問題解決を生み出せるようなリーダーが期待されるのは当然。ネットワーク型組織の基本は個人の自発性と専門性が重要。成功の鍵はモデレーター的な役割を担う事務局の人材。
 
[2] 「モデレーター」とは、ワークショップの参加者が議論を通してプロジェクト・マネジメントという困難な仕事に貢献できる環境をつくる役割を担うもの。司会者とも訳されるが、進行役という言葉のほうが正確。モデレーターは議論をリードするのではなく、議論の整理と進行役であり、参加者が議論を通して学ぶプロセスや意思決定の触媒役。ネットワーク型組織で、個人の自発性と専門性を引き出し、建設的な成果を上げるための支援活動をする。
 
[3] 「プライマリ・ケア」とは、逐語訳では「初期手当」だが、この制度が進んでいる英国では、General Practitioner/Family Physicianつまり家庭医と呼ばれる専門医がこれにあたる。日常よく遭遇する病気や健康問題の大部分を患者中心に解決するだけでなく、医療・介護の適正な利用や予防、健康維持・増進においても、利用者との継続的なパートナーシップを築きながら、地域内外の各種サービスと連携するハブ機能をもち、家族と地域の実情と効率性を考慮して提供されるサービスのこと。市民のあらゆる健康上の問題や疾病に対し、総合的・継続的・全人格的に対応する地域の保険医療福祉機能のことをいう。(一橋大学医療経済学者 井伊雅子著 HQ Vol. 35 『「ぷらいまり・ケア」を中心に日本の医療制度改革にアプローチ』より)
 
[4] 「地域包括ケアシステム」とは、地域社会での暮らしや高齢化に対応するための医療・介護サービスとまちづくりの一体化により、高齢者がいつまでも在宅にて安心で元気に生活ができるようにハード・ソフトの両面で地域住民を支えるシステムのこと。それには、(1) 地域でかかりつけ医が合理的に在宅医療に取り組める体制 (2) サービス付き高齢者向け住宅と在宅医療を含めた24時間在宅ケアシステム (3) 地域の高齢者が地域内で就労できる環境をつくり、自立生活を維持する ことが必要といわれる (平成24年2月11日付民主党広報より)
 
[5] 「提言2」P. 3 運営の主体 参照

[i] 【住宅建築コーディネーター制度の導入】
 
 一言でいうと住宅は「ややこしい」。リフォーム工事は新築よりもっと難しい。トラブルも多い。なぜか?それは、関係する分野があまりに多いからである。建築、土木、設計、構造、設備、意匠、エネルギー、環境、土地、税制、金融、法律、歴史・文化・伝統、健康、介護医療、保険などあらゆる分野にまたがる広汎な知識を要求される。かといって、全ての分野のエキスパートであることを求めるのは現実的でない。現実と期待のギャップが生まれる。これらを有機的に取り纏めるには、ネットワーク型の組織に頼るしかない。
 
 それぞれの分野の専門家と有機的に連携できる立場にある人が中心になって、個々の案件をプロジェクトチーム的な運用で賄えるような民間の組織である。法人格の有無や組織の形態は問わない。これを仮に「住宅建築コーディネーター」と名付ける。リフォーム需要の創出には「住宅建築コーディネーター」の機能を果たす人の存在が不可欠である。しかも、全国の津々浦々で多数が必要だ。
 
 「住宅建築コーディネーター」は所属する組織(団体・会社)の支援を得て、後述の「住まい情報館」で住まいに関するあらゆる相談の受付と調整の窓口になって、ワンストップサービスを提供する。リフォーム工事内容や材料のアドバイスだけでなく、省エネと環境負荷、長寿命化の手法、耐震力。更に、土地探し、住みかえ支援、建物検査、住宅ローンの取次、建築士や工事業者の紹介、瑕疵保険、住宅エコポイントなど住宅建築と改修工事に関するあらゆる分野の総合相談窓口となって、個別分野のエキスパートと連携しながらプロジェクト進行する役割をもつ。住宅建築とリフォーム工事にまつわるトラブルや紛争処理の取次も、事業者と消費者の双方からニーズがあるだろう。住宅関連の補助事業全般に亘る総合的な理解も不可欠である。インフィルだけでなく、エクステリアと植栽に関する知識も必要だ。
 
 関係する分野が不定型に広く、さりとて専門家ではなく、利害相反関係にある業種(例えば住宅検査と建築工事、設計監理と施工)にまたがる内容を含むので、公正性と第三者性の担保に難ありで、公的な資格制度にはなじまないかもしれない。民の知恵の発揮のしどころだが、臓器の移植コーディネーターやFP(ファイナンシャル・プランナー)のようなものをイメージすればいいと思う。運営面では、個別分野の専門取引とコーディネーション(調整)業務を切り離すプロジェクトマネジメント方式が現実的である。「住宅建築コーディネーター」の普及には、どんな形での国の支援と民間活力の融合が相応しいのか、専門家の叡智による積極的な論議を期待したい。(「提言1」P. 5より引用) 

「住まい情報館」の運営に参加する構成員の業種

 「住まい情報館」の運営には、理想的には下記業種の専門家が参加して住まい手のあらゆる要望にきめ細かく応えて、最も効率的にワンストップサービスの提供ができることが望ましい。特に、高齢者用の施設や介護改修では、近隣の医師による定期訪問診療や訪問介護、服薬指導などその運営に協力してくれる医療機関や介護サービス、福祉用品のレンタルショップ等との連携が欠かせない。
 
 これらの構成員は、「住まい情報館」が求める価値[1]を実現するために、緩やかな連携を図り、切磋琢磨して、自発的に活動することが求められる。一方、会の事務局は、構成員の既得商権に脅威を与えるような言動は厳に慎むべきで、構成員と住まい手の双方の価値の実現で会に所属することで大きなメリットを感じることのできるように会を運営することが求められる。言葉を変えていうなら、この会がなければ成立しえない取引が、この会に所属して、その会が掲げるスキームを利用することができた結果、取引が成り立った、と感じることのできる仕組み=価値創造、が内在していることが必要だ。
 
              施工                     新築・リフォーム(部分改修・大規模改修 戸建・集合)
              設計                     設計士・建築士、モデルプラン提供、建築家コンペ(オプション)
              不動産                  土地探し、不動産取引仲介、販売住宅、建物管理、入居者募集
              協力医療機関・介護福祉サービス機関・レンタル用品ショップ等
              地盤調査              調査と地盤改良工事
              確認検査・性能評価機関
              電気・通信・LAN工事
              設備・ガス工事
              外構工事・造園・植栽
              専門職人              左官・建具師・表具師・瓦・漆喰
              インテリア工事    家具・カーテン・照明・カーペット
              建具・金物工事
              エネルギー           電力事業者・ガス供給事業者
              金融機関・保険    フィナンシャルプランナー(FP)・ライフプランナー
              法律                     弁護士(法律相談)
              会計                     税理士(税制・相続・贈与)
              メーカー              住宅設備、建材、サッシ、エクステリア、エネルギー機器
              Webサービス      ITツールを応用した広報
[1] 「住まい情報館」の価値とは、「事業者」による「高い品質・性能の住宅や住環境と住まい方を提供すること=いい仕事振り」と「住まい手」の「自分に合った住まいをリーズナブルな価格で手に入れること=新しい住まいに対する高い満足度」。(「提言2」P. 2 「住まい情報館」の顧客は誰か?そしてその活動が目指す「成果」は何か? 参照)

宅建取引における既存住宅売買とリフォーム工事の現状

 構成員による自律的活動とネットワーク型の組織運営で、グループが目的とする既存住宅売買+リフォーム工事のワンストップサービスを普及させるには、何が障害になっているのか、現状の冷静な分析をしてみよう。
 
 「提言1」で「現状有姿」取引の問題点[1]と「両手取引」の公正化[2]について論じたが、これは問題の裏表の事象。誰もが瑕疵の責任をとりたくないから、個人間売買で仲介手数料だけを稼ごうとするので、買主は失敗や下手な買い物で損をすることを避けて条件(立地・広さ・価格)は悪くなるが新築に心が傾く。
 
 これだけではない。その他にもさまざまな事柄が既存住宅取引の活性化を阻んでいるが、その最大の理由は購入後のイメージがわかず、見えない部分の不安だけが頭にこびりついてしまうことだろう。いくら価格が手ごろだといっても、耐久性(構造、雨漏り、シロアリの食害等)、省エネ性能、リフォーム工事の内容と可能性(外観、間取り等、最新の設備機器等)など、どこまでどんなことができて、どんな保証があるのかがいまひとつよく見えないことが多い。リフォームローンの手続きが煩雑で使いにくいこともある。そもそもの価格の妥当性も判然としないのが中古住宅。競売による格安物件のニュースに接することもある。
 
 宅建業者からすれば、汚いままの住宅では商品価値に乏しいので、少々の化粧直しは止むを得ぬとしても、無駄な出費は避けて、必要最小限にとどめたいところ。買主が見つかるかどうかわからないものには、売主も宅建業者もお金はつぎ込まない。ましてや買主の好みは千差万別。購入者が、自分の予算と好みや性能目標(既存住宅の性能表示制度)に合わせてリフォームするのが最も現実的。
 
 そうなれば、必然的に売主は所有者で売買は個人間取引で、宅建業者は仲介となる。
[1] 「現状有姿」取引の問題点:この取引では、売主の瑕疵担保責任が免除されるものと解釈されており、入居後のトラブルが多く、一般的に胡散臭いので買主が敬遠し、新築を求める傾向が強い。
 
[2]「両手取引」の公正性:これは仲介取引で売手と買手の双方を代理する事実上の「双方代理」で、民法が禁止するもの。当事者が予め承諾している場合は除外されているとはいえども、瑕疵は利益相反事項であるにもかかわらず、仲介者(=宅建業者)は取引の成立を優先するためモラルハザードを起こしやすい。

価値創造の仕組みと共通ルール

ならば、どんな仕組みで価値創造するか?
 
 地域型住宅ブランド化事業では、独自の「地域共通ルール」が求められた。「住まい情報館」の運用も、地域の住まい手や構成員の宅建業者が「なるほど、それなら安心できる、やってみようか」といって価値を認めてくれる「共通ルール」を創って、その共通ルールに基づいて構築される一連の取引をグループが包括的に認証する、といった形でやれば見込みがある。どんな「共通ルール」を創るかが工夫のしどころだ。必須項目と選択項目の組合せで、サービスに幅をもたせることが可能となる。
 
 参考までに、中古・戸建て住宅の個人間売買で宅建業者は仲介のケースをモデルに≪共通ルール≫の一例(案)を記す。実際のケースでは不動産取引所での競売物件が多数を占めるだろうが、マッチングが個々に相対でされるか、取引所を通じて行われるかの違いなので特に両者を区別はしないで論じる。
 
[必須項目]
      
       1.個別物件(売情報)と購入希望者のグループへの事前登録
       2.売買契約前の家屋診断(ホームインスペクション)
       3.売買契約成立後のリフォーム契約の予約
       4.既存住宅個人間売買瑕疵保険の付保(リフォーム契約成立時)
       5.建築確認申請(現実的かどうか、吟味する必要あり)
       6.耐震補強・省エネ改修工事(法令の規定による)
       7.工事監理と監理記録書の作成
       8.住宅設備の5年保証サービス(更新設備のみ)
 
[選択項目]
 
       1.既存(中古)住宅の性能評価
       2.住宅履歴情報の登録
       3.現場写真管理サービスの採用
       4.リフォーム一括ローン(例えば、審査の条件は[必須項目]のクリア等)
       5.既存住宅長期優良住宅(制度設計中)
      
 共同住宅の大規模リノベーションや社員寮などの遊休施設の高齢者用施設へのコンバーションにも同様の共通ルールを設けて既存建物を高齢者対策、空家対策に有効利用することが、高齢者が居住できる最低限の空間を確保し、国民の生活を守る上でも有効な政策実現手段となる。提供できるサービスには、プラニングから入居者の募集、一括借上や施設運営代行など多様なサービスが考えられる。案件ごとに構成員でプロジェクトチームを組んで対応するのも一案だ。この方式であれば、市街地の大規模開発やスマートコミュニティづくりなどにも応用が可能だ。
 
 ただ注意しなければならないのは、繰り返しになるが、第一にこれらの個々のサービスは、ワンストップでかつ包括的に提供されることが肝要。換言すれば、「共通ルール」に則って運営がされているというグループ(事務局)とその構成員に対する信認=ブランド力が大切である。それにはやはり公のオーソライゼーションは欠かせない。
 
 もう一つの注意点は、住まい手の将来に対する漠とした不安への措置である。つまり、将来の困った・・・を回避するために今、何ができるか?何をしなければならないか?を慮り、その不安への手立てをしておかねばならない。60歳代と80歳代では人は「お金を使ってもいい」と納得する中身やニーズが異なる。本人の身体状況や家族の状況も個々に異なる。年齢と身体状況に応じて柔軟性の高いメニューが予め用意されていて、どんな状況になってもなんとかなるだろうという安心感や国の制度に対する信頼感が必要だ。
 
 これには、住みかえ支援体制の充実[1]が有効だ。個人間の中古住宅売買で既存住宅の流通を促進することは、居住家屋の売却希望者に対する住みかえ支援でもある。遊休施設のリノベーションは、所有法人の収入になるだけでなく、社会全体でみれば高齢者用住宅の大量供給に寄与する。しかも、大きな財政支出を必要としない。住まなくなった自宅(居住用不動産)が容易に処分(ストックのフロー転換)、若しくは賃貸でき、自分の身体状況に相応しい施設に住みかえができるという安心感や制度・運営者に対する信頼感が醸成できれば、計画の実施に拍車がかかる。老後の生活資金にも充当することができ、金融資産の社会的な(非相続的)世代間移転にも有効である。ストック社会における再配分政策、社会保障政策、老後保障政策にも有効な手段となるのではなかろうか。
[1] 一般社団法人移住・;住み換え支援機構(JTI)は、居住用資産を賃料保証で終身借上げ、住宅資産を売却することなく安全かつ有効に活用する制度を提供している。

補助事業の実施要領(私案)

 「提言2」で「住まい情報館」の初期費用と運営費の概算[i](文末脚注参照)を記した。初期費用で35百万円、運営に要する費用が10百万円/年だが、今回のブランド化事業で結成されたグループが運営主体となるケースだと、補助の手法も違ってこよう。
 
 補助手法は、(新築住宅が対象の)ブランド化事業と同様に「共通ルール」に基づいて売買+リフォームされた既存住宅の買主に直接交付して、自然と取引が成り立ってゆく方向に政策誘導することが望ましい。既存住宅の購入者にとって、高額な耐震補強や断熱改修に踏み切る魅力を感じさせるには、最低でも新築住宅並みの補助額であることが好ましい。共通ルールに盛り込まれる義務項目(=追加コストが発生する)との程よいバランスが求められている。
 
 「住まい情報館」の建物(基礎、土台、壁、屋根の構造や工法・施工過程がよく見えるように中身をくり抜いたりしているので、これが「建築物」といえるか疑問。建築基準法的には「仮設物」区分か?・・・但し、倒壊と雨漏り対策は必要。敷地は、事務局会社の敷地内を想定。詳しくは文末脚注[ii]を参照)や説明用の模型やディスプレイ、パネル等は、事務局会社が外注して制作し、減価償却費相当の賃料でグループにレンタルする。スタッフや事務所の備品はブランド化事業のスタッフが兼任で効率的な運営をする。この方法が最も現実的だろうと思う。
 
 これらの費用を賄うには、構成員からの年会費と取引が成立する都度、適正なレベルの利用手数料を取引金額等に応じて徴収する方法が考えられる。もちろん、費用の全額を賄えるほどの手数料収入があろうとは期待できないので、不足分は採算ベースに乗るまでは事務局会社からの拠出と国庫補助にたよるしかない。どんな費用がどのくらいの割合で国庫補助されれば、事務局会社が運営に踏み切れるかは精査を要する。
 
 既存住宅の購入者にとっては、固定資産税が低く抑えられる税制面でのメリットが大きい。一括リフォームローンが商品化されれば、併せて住宅ローン減税の優遇メリットもある。補助金を含めこれらの優遇税制メリットをしっかりと広報できれば、既存住宅取引の活性化にも結び付く。中古住宅の土地・建物の一括売買は非課税取引(リフォーム工事は課税取引)なので、買主の消費税負担がないのも大きなメリットである。
[i] 「住まい情報館」の初期費用と運営費用(「提言2」より引用) 
初期費用 内 容 百万円
建物建築費 木造軸組み2階建、建築面積20坪、延床面積35坪
部位の実物比較展示を含む
20
展示物費 展示用設備機器・商品整備/模型・説明用パネル 10
備品 オフィス家具・備品・通信設備 5
  小 計 35
運営費用/年   百万円
地代 敷地面積40坪(坪2000円)駐車場含む 1
賃金 スタッフ1名(住宅建築コーディネーター)、補助者 6
運営費 光熱費・通信費・印刷費/維持管理・修繕費 3
  小 計 10/年
[ii]  「住まい情報館」の仕様(案)
          
展示テーマ 【住まいのリフォームで省エネ、人と環境に優しく暮らす】
             
              (1) 建物の基本性能:建物自体の設計の工夫
・建物の配置や構造・形、窓の配置、庇
・断熱・気密・日射遮へい・自然風の利用と通風・日射熱と昼光の利用
・植栽の利用
・建材の応用(外皮部)
                            屋根材、外壁材(サイディング・モルタル・タイル)、透湿防水シート、                                        断熱サッシ
                            断熱工法と断熱材の種類、壁体内通気工法、小屋裏換気
                            日射遮へい対策(庇、開口部、植栽、簾、ブラインド)
・建材の応用(構造部)
                            躯体材料・構造用面材、耐震補強材料と工法、建築金物のあれこれ、剛床
                            制震・免震工法、耐震リフォーム工事、基礎工事・補強、地盤改良、地耐力診断
                            床下換気と点検口、防蟻処理
           
         (2) 各種設備機器の利用
・高効率機器と節水機器の利用
                            熱源別給湯器、性能・ランニングコスト比較
            電気(エコキュート)、ガス(エコジョーズ)
・暖房・冷房・換気・給湯・照明等の最適な選択枝
              ・暖冷房機器と換気、エアコン、床暖房、換気計画
              ・照明(LED、省エネ型蛍光灯)、人感センサー
              ・水廻りの設備とビルトイン機器
                            キッチン、バス、トイレの選び方、省エネと節水、さや管式給排水システム
              ・防犯・防災対策、セキュリティシステム
              ・バリヤフリー(物理的・温熱環境)対策、手すり
              ・障がい者対応(車いす用対応トイレ、段差昇降機、リフター等)
 
         (3) 再生可能エネルギーの利用
・太陽光発電・太陽熱利用・エネファーム、W発電の住まい
 
         (4) 住まい方の小さな工夫
・着衣・窓の開閉・カーテンや簾の利用
・待機電源の切断・残り湯・連続入浴・節水
・雨水利用
 
           ライブラリー(案)
 
              会員事業者が利用可能な各種のデータや資料の一例としては、下記を想定している。
 
              ・リフォームモデルプラン集・実例集
              ・各種住宅リフォーム瑕疵保険のごあんない
              ・住宅設備機器の長期延長保証の運用例(IGSサービス)
              ・住宅履歴ソフト(家カルテ、あんしん台録等)
             
 
 
会員事業者に対する技術研修と情報提供
 
(1)技術水準の習得と維持に関する研修
 
(a) 長期優良住宅で要求される仕様や工法のモデルプラン(意匠・構造・設備)の提供と認定支援
(b) 性能評価住宅と省エネ住宅の普及促進
性能評価、省エネ・創エネの普及推進、次世代省エネ基準とトップランナー基準に対応するための体制整備、既存住宅の省エネ改修の研究・研修、省エネ改修のモデル工法の開発、Casbeeなど住宅のエネルギー性能評価ツールの研究
(c) 各種施工研修・技術研究会の開催
 
(2)法律・制度に関する情報提供と普及促進
 
長期優良住宅普及促進事業の他、住宅関連法規の説明(改正基準法・建築士法・省エネ法・住宅瑕疵担保履行法)、各種補助金・優遇制度・助成金制度など、住宅関連の法律と制度に関する情報提供と普及促進

本スキームの実現に際しての検討課題

 但し、上述したスキームが実現するには、下記の課題が克服されねばならない。
 
≪課題1:建築基準法の規制緩和≫
 
 「提言1」では、増築規制の緩和と「標準」を示唆する法体系へのシフト(松竹梅方式)を提言したが、この分野ではまだまだ不自由な面が多いように感じる。事業者への啓発も不十分である。
 
 本年8月に国土交通省が公表[1]したところによれば、既存不適格の増改築で「2分の1ルール」の緩和が検討されている。中古住宅の耐震・省エネリフォームや共同住宅の大規模改修が普及し、市場での流通が促進されるよう、より一層の緩和措置と周知のための広報が望まれる。
 
 また、住宅のリフォーム工事は、500万円未満ならば「軽微な工事」として、現行法規では建設業許可が不要だが、トラブルの発生防止のため、建設業許可やそれに準じる仕組みの導入を検討中とのことだが、地域で活躍する建材流通業者を何らかの形で関与させた仕組みができれば、トラブル防止の抑止力は高い。
 
≪課題2:一括リフォームローンの制度充実と税制優遇≫
 
 これも「提言1」に掲げたが、社会資産としての住宅の価値を支えるには、(土地+建物+リフォーム工事の)一括ローン制度を充実させてより使いやすくする必要がある。「土地には簡単に融資するのに、古い建物の全面改修には多くの銀行が慎重になるのは、審査経験と実績に乏しいからだ」と建築家の青木茂氏[2]は喝破する。それには住宅の担保価値を上げる必要があるが、「中古物件の改修工事で一括融資を受けやすくするには、建築確認・検査済証に工事監理の3点セットを揃えるといい(りそな銀行の例)」という。その結果、資産価値が高まれば、正に欧米では基本の「富の上に富を創る」が実現する。
 
 金融機関には、新築物件ばかりでなく、既存住宅の資産価値を高める手法とその確認手段をよく研究して、どんなバウチャーが提示されれば審査で承認できるか、新築住宅と同等の条件で中古建物に対する融資を実現するには何をクリアせねばならぬかを精査し、既存住宅の流通促進と高齢者の居住空間拡大という社会のニーズに応える努力をしていただきたいものだ。
 
 それと合わせて、中古の長期優良住宅制度の充実(新設)や税制面での新築並みの優遇制度も期待するところだ。法制の充実と金融機関の切磋琢磨が求められている。
[1] 緩建築基準法の緩和に関する施工例や関連省令、告示の改正案(平成24年8月8日公表)、9月14日の告示で9月20日施行が決定
 
[2] 日経アーキテクチャー2012-8-25 改修設計の勘所 「初期投資の2割が新たな付加価値に 建築確認の取得が資産価値を高める」

おわりに

 これまでの3回にわたる提言で、「住まい情報館」の体制整備とネットワーク型の運営手法とそのルール提議したが、現実と理想のギャップは依然として大きい。しかし、時代の潮流は、これら提言が決して荒唐無稽ではないところまできているような気がする。より一層の建築基準法の緩和措置や一括ローンの商品化も求められている。耐震改修や省エネ改修、中古住宅流通、サービス付高齢者住宅、高性能建材導入促進など、国土交通省をはじめとして、経産省、農水省等の行政が実施するさまざまな補助事業が、地域のグループが受け皿となって統合的に重複利用できることが可能になれば、更に大きな成果が発揮できるようになるのではなかろうか?
 
 法律や制度の問題から人材育成、住まい方やライフスタイルの変化など多くの課題は残されているが、「千里の道も一歩から」の諺にもあるとおり不断の実践が大業をなすものと信じて疑わぬ次第である。
 
再啓